相続分譲渡契約の無効確認請求
2025年04月28日
皆様にとって身近な法制度の一つが「相続」です。
この「相続」については、これも一度は耳にしたことがあるでしょう「民法」に定められているのですが、専門家にとっても難しかったり、分かりにくい制度もある、実は深い分野でもあります。
あまり耳にしないところで言うと、例えば、「相続分の譲渡」という制度があります。相続人としての地位を丸ごと譲渡する、というイメージで間違ってないと思います。
何のための制度か、というと、譲渡人からすれば、相続の面倒な手続きから逃げられるというメリットがあります。それなら単に相続放棄すればいいのでは、とも思えますが、相続放棄をした場合は、他の共同相続人全員の持分が増加してしまいますが、相続分の譲渡の場合は、特定の人(譲受人)の相続分をピンポイントで増加させることになる点で、大きな違いあがります。
他の相続人にとっては納得がいかない配分になることもあり、この相続分の譲渡はおかしい、といった紛争が生じることがあります。よくあるのは、騙して相続分を譲渡させたのではないか、というものです。
この点について、今回は、仙台高判令和3年1月27日を取り上げます。
相続分の譲渡については当然意思能力が必要なのですが、この件は、アルツハイマー型認知症に罹患していた97歳の女性が、夫の相続にかかる自己の相続分を長女に無償で譲渡してしまいました。この契約が、意思能力の欠如により無効ではないかということが争われた事案で、なかなかに痺れるケースです。
医学的な判断もあるので詳細は割愛しますが、原審では、アルツハイマー型認知症に罹患し、重度の記憶障害があったことは認めつつ、本件相続分譲渡契約時に異常な挙動がない、自己の相続分を譲渡する意思を能動的かつ積極的に表示した、当該契約を締結するに足る動機があることから、比較的単純な内容の本件契約の結果を弁識し、判断する能力を欠いていたとまでは認められない、としました。
これに対して控訴審は、相続分譲渡が周囲に与える影響を理解した上で判断を下すことや、自分の判断の理由と経過を周囲に説明することができなかった、相続分譲渡に関連する状況と情報を理解すること自体ができなかった、として、必要とされる意思能力がなかったことは明らかとしました。
医療記録、看護記録はもちろん、関係者の証言なども精査されたようなのですが、相続分譲渡契約に弁護士が立ち会っていたことも争点となったようです。結果的には、弁護士が立ち会っていたことと意思能力は関係ないという判断が下されたようですが、まあ、これも弁護士にとっては痺れる展開で、いろんな意味で気をつけたいところです。