コラム

証人尋問の準備


2025年08月29日

今回は、自由と正義2025年7月号で公表されていた、弁護士の懲戒事案を取り上げたいと思います。

民事訴訟事件を受任していた弁護士が、尋問対象者に対して記憶に反する供述をするよう積極的な指示を行った、という事案です。

条件反射的に「偽証罪!」という言葉が頭をよぎりますが、ここらはちょっとややこしくて。

まず、「偽証」とは何ぞや、というと、主観説といって、証言をする人が、自分の記憶と異なる証言をすることとされております。

そして、刑法の偽証罪(刑法169条)が成立するのは、証人が偽証した場合。訴訟の当事者が尋問される(「本人尋問」)ことももちろんあるのですが、当事者が自己の記憶と反する供述をしても、偽証罪は成立しません。ただ、過料の制裁があありえます(民事訴訟法209条)。

日常用語と法律上の定義の違い、ややこしい。

次に、民事訴訟における尋問の進み方なのですが、「宣誓」をした上で、主尋問から行われ、主尋問→反対尋問→再主尋問・・・・→裁判所からの質問という形で進行するのがオーソドックスです。

そして、主尋問は、味方(自分が依頼した弁護士)から質問されて答えていく、ということが多く、したがって、どういう質問をするか、どういう答えをするか、等について、尋問の前に弁護士との間で打ち合わせをします。

ここで本件がリンクしてくるのですが、弁護士が、記憶違いの証言を求めたり、示唆してはいけないのです。

確かに、記憶と違う証言をする人はいるし、それを意図的に、場合によっては味方の弁護士を騙してまでウソをつく人はいるでしょう。

しかし、専門職の弁護士がその流れに乗っては絶対にいけない。尋問という制度を根幹から揺るがすことになりますし、本人が自己保身でウソをついちゃうというのとは全く次元が違うと思うのですね。

このケースは、弁護士は会社の代理人であり、その会社の代表者を尋問するという「本人尋問」だったようです。

とすると、刑法の「偽証罪」の問題は生じないのですが、そうだとしても、ご法度であることには変わりないわけです。

なお、偽証罪で刑事事件になったり、過料が課せられる件は多くないのですが、休業損害を求めていた事案で、自分の勤務実態と異なる証言をしたというケースが悪質ということで、当事者尋問で嘘をついた当事者に10万円の過料の制裁を科したという事例があります(決定の事件番号は不明。基本事件:名古屋地裁令和3年10月20日判決。判例タイムズ1494号125頁)。

*事案の概要は、自由と正義を参考に筆者が作成しました。


カテゴリー: 懲戒処分